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みずぐるま

みずぐるま

山本 周五郎

「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,077 字 · 54 页

青空文庫

「親方が呼んでるよ」と権之丞が云った、「いかねえと怒られるよ」

若尾は振返った。うるさいわね、そうどなろうとしたのだが、そこへ手品の操太夫が入って来た。舞台へ出る姿のままで、飴玉をしゃぶっていた。

「若ぼう、親方が呼んでるよ」と操太夫は近よりながら云った、「そんなもの、うっちゃっといて早くいきなさい、怒られるよ」

「だって、もうすぐ産れそうなのよ」

「いいからいきなさいってば、そんなことしなくったって犬は独りで産むわよ」

「あたし小菊さんのねえさんに」

そう云いかけたとき、また二人、丹前舞の仙之丞と、操太夫の後見をする縫之助とがとびこんで来た。

「ほんとか、若ぼう」と仙之丞がとびこんで来るなり云った、「おめえ、お侍の家へ貰われていくんだって、本当の話か」

「親方はそう返辞をしてたよ」と縫之助がまだるっこい調子で云った、「あとからすぐに伴れてまいりますってさ、当人の出世のためですからって、ちゃんと約束していたよ」

若尾は立ちあがった。立ちあがって振返って、そこにいる四人の顔を順に見た。

「ほんとだよ」と縫之助が云った。

「でたらめよ、そんなこと」と若尾が屹とした声で云った、「みんなだって知ってるじゃないの、酒の相手に出せとか、お妾に欲しいとかって、いやらしいことばかり云って来るじゃないの、わかってるよ、もう」