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ゆうれいかしや

ゆうれい貸屋

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1950(昭和25)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,320 字 · 42 页

青空文庫

「おめえ隙間から、出入りするじゃねえか」

「あたしは針の穴だってぬけられる、でも岡持だのなんだのはだめ、だってこういう物は、ゆうれいじゃないんですもの」

「なるほど、そういう理窟か」

「あらもうおつもりだわ」ゆう女のお染は徳利を置いた、「あたし一人で飲んじゃったのねえ、もう少し取って来ましょうか」

「おらあもういい、おらあ強かあねえんだ」

「じゃあ明日の晩として、……ねえ、あなたア、うふン、あたし酔っちゃったわよう、ねえエ、お床敷いてエ」

そして夜が明けた。

夜は明けたが、弥六の起きたのは午後であった。これは稀なことである。怠け者に似合わず彼は早起きだった。朝早く起きれば、一日ゆっくり怠けられる――というのが彼の存念であった。こんなに寝過したのは、生れて初めてだろう――弥六は起きて、ぼんやり部屋の中を眺めまわした。裏店のことで隙間だらけだから、外の光はむやみなくらい射し込んで来る。

「おっ、あるぜ、鰻も、酒も、岡持も」

弥六はそれらの物を、ついそこに認めた。

「するてえと、夢じゃあねえんだね」彼は頭を振り、ふと勝手口のほうへ向って呼んだ、「おめえいるか、おい、……お染」