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パノラマとうきだん
パノラマ島綺譚
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页
だが、見る限り、一人の人も、一匹の動物も、たった一本の枯れ木さえも見えない。緑の沙漠の様なこの平野は、その様な名画よりも、一層私達を撃ちはしないだろうか。ある悠久なるものが恐しい力を以て私達に迫っては来ないだろうか」
千代子は先程から、青いというよりは寧ろ灰色に見える、余りに広い空を眺めていました。そして、いつとはなくまぶたに溢れた涙を隠そうともしませんでした。
「この芝原から道が二つに分れているのだ。一つは島の中心の方へ、一つはその周囲をとり巻いて並んでいる幾つかの景色の方へ。本当の道順は先ず島の周囲を一順して、最後に中心へ這入るのだけれど、今日は時間もないのだし、それらの景色はまだ完全に出来上っている訳でもないのだから、私達はここからすぐに中心の花園の方へ出ることにしよう。そこが一番お前の気にも入ることだろう。だが、この平野からすぐに花園と続いては、余りにあっけない気がするかも知れない。私は外の幾つかの景色についても、その概略をお前に話して置いた方がいい様な気がするのだ。花園への道まではまだ二三町もあることだから、この芝生を歩きながら、それらの不思議な景色のことをお前に伝えることにしよう。