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パノラマとうきだん
パノラマ島綺譚
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页
二十一
肉塊の滝つ瀬は、益々その数を増し、道々の花は踏みにじられ、蹴散らされて、満目の花吹雪となり、その花びらと湯気としぶきとの濛々と入乱れた中に、裸女の肉塊は、肉と肉とを擦り合せて、桶の中の芋の様に混乱して、息も絶え絶えに合唱を続け、人津浪は、或は右へ或は左へと、打寄せ揉み返す、その真只中に、あらゆる感覚を失った二人の客が、死骸の様に漂っているのでした。
二十一
そうして、いつの間にか夜が来たのです。乳色であった空は、夕立雲の黒色に変り、百花の乱れ咲いた、なまめかしき丘々も、今は物凄い黒入道と聳え、あの騒がしい人肉の津浪も、合唱も、引潮の様に消え去って、夜目にもほの白く立昇る湯気の中には、廣介と千代子とただ二人が取残されていました。彼等の蓮台を勤めた女共も、ふと気がつくと、もう影も形も見えないのです。その上、この世界を象徴するかに見えた、あの一種異様の妖艶な音楽も、余程以前から聞えないのです。底知れぬ暗闇と共に、黄泉の静寂が、全世界を領していました。
「マア」
やっと人心ついた千代子は、幾度となく繰返した感嘆詞を、もう一度繰返さないではいられませんでした。