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パノラマとうきだん

パノラマ島綺譚

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页

青空文庫

三

そんな訳で、折角気を入れて書き上げた創作などが、雑誌編輯者に握りつぶされたことも一二度ではなく、そこへ持って来て、彼の性質が、ただ文字の遊戯などで満足するには、余りに貪婪であったものですから、小説の方では一向うだつが上らないのです。といって、それをも止めて了っては、早速其日の暮しにも困るので、厭々ながら、いつまでも下積み三文文士の生活を続けて行く外はないのでした。

彼は一枚五十銭の原稿を書きながら、そして、それの暇々には、彼の夢想郷の見取図だとか、そこへ建てる建築物の設計図だとかを、何枚となく書いては破り、書いては破りしながら、彼等の夢想を思うままに実現することの出来た、古来の帝王達の事蹟を、限りなき羨望を以て、心に思い描くのでした。

三

さて御話というのは、人見廣介がその様な状態で生き甲斐のない其日其日を送っている所へ、ある日のこと、それは先に云った例の離れ島の大土工が始まる一年ばかり前に当るのですが、実にすばらしい幸運が舞い込んで来たことから始まるのです。それは一口に幸運などという言葉では云い尽せない程、奇怪至極な、寧ろ恐るべき、それでいてお伽噺にも似た蠱惑を伴う所の、ある事柄でありました。