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ぼんじんでん
凡人伝
佐々木 邦
「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页
ロビンソン氏は呆れて私の顔を見ている。しかし亦これが好い練習になった。私には一生に唯一度失敗の成功がある。それは丁度その頃起った。或晩、立花君が私の部屋へ入って来て、
「河原君、君に一つ折り入ってお願いがある。是非聴いて貰いたい」
と頭を下げた。
「何だい? 改まって」
「実は先刻猪股さんから聞いたんだが、地方の中学校から口が一つかゝって来ている」
「ふうん」
「最近卒業の優秀なものを寄越してくれというんだ」
「成程」
「猪股さんは君をやろうか、僕をやろうかと考えている。席次からいうと僕だけれど、約束からいうと君だそうだから、二人で相談して定めろと言うんだ」
「君行き給え。優秀という条件なら君だよ」
と私は喉から手が出るようでも、成績を言い立てられると、何うにも仕方がない。
「いや、優秀といっても必ずしも首席と限らない。出来の悪いのを寄越してくれというところはないからね。単に出来の好いのという意味さ」
「兎に角、僕は駄目だよ。ロビンソンさんに約束があるから、こゝ当分は動けない」
「僕もこゝ一二年母校の為めに尽す決心だったけれど、君とは少し違う。我より後に来たるものは我に勝って力ありというような後任があるんだから、動けないこともないんだ」