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ぼんじんでん

凡人伝

佐々木 邦

「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页

青空文庫

卒業前後

「そんなことはないよ。心以上に何かある」

「今の女に何があったい? 君」

「…………」

「あの姿を見て、霊魂があると思えるかい? 肉体が死ねば、もうそれで万事お仕舞いだ。それは霊魂があって不滅なら、こんな都合の好いことはないさ。しかしないよ。霊魂はないよ」

と高木君は例によって押して来た。凡人の悟りは偉人のそれと違う。ルーテルは友人の雷死を眼前に見て、深い信仰に入った。私は轢死人の浅ましい姿に愛想を尽かして、多少持っていた信仰が怪しくなった。

「霊魂なんかないな。あの態じゃありよう筈がない」

と赤羽君も悲観していた。

「あゝ、厭だ/\、死ぬのは厭だ」

と野崎君は頭を両手で押えていた。

卒業前後

この間、陸軍少尉になった甥が訪ねて来た時の話、私は、

「若い将校だなあ」

とツク/″\見守った。軍服はつけているが、まるで中学生のようだ。

「未だ成りたてのホヤ/\ですからね」

と妻が説明した。妻の従姉の惣領息子だ。

「それにしても若い。特別早いんだろう」

「同期生の中では一番若い方ですけれど」

と少尉は若いのが残念のようだった。

「信さんは成績が好いんですからね」

と妻はこの甥が大の自慢だ。