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ぼんじんでん
凡人伝
佐々木 邦
「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页
信者未信者
と野崎君がその手を捉えて、組み打ちになった。
「よせ/\」
と私達は止めたが、二人は揉み合って、卓子の上へ倒れかゝった。ガタンという物音、室内が真暗になった。
「ランプが破れたぞ」
「危い/\」
と皆口々に言いながら手探りを始めた。その瞬間、床の上がパッと燃え上った。流れた石油に火がついたのである。
「火事だあ」
と叫んだものがあった。皆羽織を脱いで叩き消した。野崎君も赤羽君も喧嘩を忘れて手伝っていた。
「滅法界もない」
と小使の老人が提灯を持って駈けつけた。
「もう大丈夫だ」
「いけません。火事を出すようなものに教室は貸せません。猪股先生に申上げる」
「後はもう気をつけるから」
と立花君が歎願したけれど、小使は承知しなかった。懇親会が取り止めになったのみならず、翌々朝学校の掲示板に、
「教室にて集会を催すことを一切禁止す」
と出ていた。
信者未信者
野崎君と赤羽君は喧嘩をしても、直ぐに仲よしになる。懇親会で組打をやった翌朝は流石に睨み合っていたが、午後、
「おい。ぼんやりしていないで、散歩にでも出掛けないか?」
と野崎君の方から話しかけた。
「宜かろう」
と赤羽君が簡単に応じた。