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ぼんじんでん

凡人伝

佐々木 邦

「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页

青空文庫

一昨日まではジョンソンさんがいられたんですけんど」

「仕方がない。もう帰る」

「晩にお出になって、お泊りになっちゃ何うですか? モニトル部屋丈け明けてあります」

「蚤がいるだろう?」

「食われますよ。餌が皆帰ってしまって飢えていますから」

「御免だ。これから用足しをして横浜へ寄る」

「然うでございますか」

と音さんは門まで送ってくれた。

私はその足で丸善へ行った序に三越へ寄った。当時三越は未だ出来たばかりだったと記憶する。彼方此方見て歩いている間に、前学期中老河原さんのところで度々蕎麦切の御馳走になったお礼に操さんへ何かお土産をと思いついて、コルクの草履を一足買った。これも当時は出来たばかりで珍らしかった。未だ東京駅のない頃だった。私は新橋から乗って、横浜の外国商館に勤めている野崎君を訪れた。

「何だい? それは」

と野崎君は私の風呂敷包に目を留めた。

「本だよ」

「丸善へ行ったのかい?」

「うん。それから三越も初めて見て来た」

「田舎漢だね」

「仕方がないさ。しかし気の利いた土産物を買って来たぜ」

と私は包を解いて、コルクの草履を出して見せた。

「これは女のじゃないか?」