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なんぼく

南北

横光 利一

「人間」1921(大正10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,591 字 · 40 页

青空文庫

そのくせ組へにじりつけて了うてさ。棺桶ぐらいしてもええぞ。」

「うちのがしたらええわして。」とお留は秋三をたしなめた。

「俺がする。」と勘次は云った。

「それみよ。」と秋三は煽てて云って、勘次の額に現れ始めた怒りの条を見れば見る程、ますます軽快に皮肉の言葉が流れそうに思われた。

「勘よ、うちにビール箱が沢山あったやろが、あれで作ったらどうやろな?」とお霜は云い出した。

秋三はにやにや笑いながら、

「そいつは好え。あれなら八分板や、あんなもんでして貰うたら、それこそ極楽へ行きよるに定ってる。やっぱり伯母やんやなけりゃ、ええ考えが出て来んわ。」

「なア、あれはほんとに好かろが、三つ位で出来るやろ。」

「二つでええとも。あれでして貰うたら、安次もなかなか腐らへんわ。そりゃ結構や。」とお留は云った。

「勘よ。お前これから帰んで、一寸拵えて来てくれんか。」

勘次は黙って帰って来た。母親が煽動に乗せられているのを思うと、別に大工の手にかけて棺を造ろうかと思った。が、しかし一々秋三に反抗するのもあまり大人気ないように思われた。が、何かにつけて自分の弱味――安次を組の手に押し附けたと云う此の弱味、それは自分の知らないことだと彼一人拒否したとて免れないその点に、――絶えず触れて出ようとする秋三の態度には我慢がしきれなかった。