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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
たそがれが、作り出した、物の怪であろうか。
「こうして見ていると、彫刻なんて、本当に薄っ気味の悪いものですね」
心なき田舎親爺にも、ただならぬ気配が感じられたのか、家主は低い声で不気味らしく呟くのであった。
三人は、迫り来る薄くらがりに、無言のまま、立ちつくしていた。その様は、恰も、八人の群像に、更に奇怪なる三体を、増したかの如く見えたのである。
「アッ、いけない。お前さんなにをするんだ」
突如、家主がけたたましい叫び声を立てて、明智の側へ駆け寄った。
だが、もう遅かった。
明智は、一人の裸婦の腰のあたりを、いやという程蹴飛ばしたのである。
家主の親爺が怒ったのは無理はない。見も知らぬ男が、何の断りもなく、二千円の商品を蹴飛ばしたのだ。そして、その大切な石膏像が欠けてしまったのだ。
「あんた、気でも違ったのかね。何という乱暴をするんだ。サア、弁償して下さい。売物が台無しになってしまった、二千円がビタ一文かけても承知するこっちゃない」
親爺は明智の胸ぐらをとらんばかりにして、がなり立てた。
裸女の一人は、腰のあたりが四五寸程も欠けて、気の毒な姿になった。