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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

母と子

なぜって、犯人を本当に知っているのは、広い世界に、その犬の外にはないからです。人間の目は、仮面や変装でごまかされても、犬の嗅覚は、滅多にごまかせませんからね。……僕の気づきようが、少し遅かった」

明智はさもさも残念そうにいった。

母と子

恐ろしい執事殺しの下手人となり、その上、彼女こそ唇のない怪物ではないかと、途方もない疑いさえ受けた、可哀相な畑柳倭文子は、一体全体どこへ身を隠していたのか。それにはまた、一場の戦慄すべき物語りがあるのだ。

「それでは、なくなられた旦那様にすみますまい。世間体もあります。御親戚の口もうるさい。いや第一、六つにもなる坊ちゃんにお恥じなさい」

口論がこうじて、老人も強い口を利いた。

そう責められると、倭文子は弱味がある丈けに、カッとした。

一体彼女は、これまでのやり方でも分る通り、年長の夫の極端な愛撫に、我まま一杯に暮らして来た、感情ばかりの女だ。いい出したことはやり通す、勝気の様だが、実は大きな駄々っ子に過ぎない。

その彼女が、いわば召使の斎藤老人に、弱点をつかれ、あまつさえ、なき夫の口からも聞いたことのない、はげしい叱責を受けて、くやしさに、のぼせ上ったのは無理もない。