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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
飛ぶ悪魔
若者は夢中になって、その方へ飛びつこうと身構えたが、ふと気がつくと、少し向うを、ノタクタと、巨大な蛇の様に這っている洋服姿。
「ウヌ!」
ひと飛びで、飛びついた。
大円球上に、死にもの狂いにもつれ合う、二つの肉塊。
「馬鹿野郎、馬鹿野郎」
暗夜に上る憤怒の叫び。その叫び声を空高く残して、もつれ合う二人は、丸屋根の上をゴロゴロと、初めはゆるやかに、徐々に加速度を増して、果ては弾丸の様な早さで、アッと思うまに、風を切って、屋根の外へと転落した。
しかも、不思議千万なことには、まだ一人、誰か屋根の上に人がいたものと見え、落ち行く二人のあとから、ゲラゲラと、不気味な笑い声が、闇に響いた。
飛ぶ悪魔
夜更けといっても、国技館前の大通りには、まだ電車や自動車が行き違っていたし、附近の商店は、明々と電燈をつけて商売をしていたし、人道を往き来する人々も、少くなかった。
菊人形の入口に、物々しく見張りを続けている警官の姿、館内を右往左往する、ただならぬ人影、自然、往来の人々の注意をひかぬ訳には行かなかった。
一人立ち、二人立ち国技館の前は、いつの間にか、黒山の人だかりになっていた。