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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
「僕はこの世が、何だか、今までとはまるで違った、恐ろしいものに見えて来ました。この数日来の出来事は、みんな、長い悪夢としか思えないのです」
三谷青年は、走る自動車の中で、恐れと驚きに歪んだ表情を隠そうともせず、明智の救いを求めるようにいうのであった。
「人間世界の暗黒面には、嘘の様な悪業が潜でいるのです、どんな悪魔詩人の空想だって、現実界の恐怖には、及びもつかぬのです。僕はこれまで、度々そういうものを見て来ました。丁度、解剖学者が、素人の知らぬ人間の体内を絶えず見せつけられている様に、僕はこの世界のはらわたの、汚さ、不気味さを存分見せつけられて来ました。しかしその僕でも、今日の様な、恐ろしい経験は始めてです。あなたが悪夢の様に思われるのは、無理もありませんよ」
明智が沈んだ調子でいった。
「岡田という男は、どういう考えで、あんなに沢山の女を殺して、石膏像に隠して置いたのでしょう。想像も出来ない心持です。気違いでしょうか。それとも、話に聞く殺人淫楽者という奴でしょうか」
「恐らく、そうでしょう。しかし、僕がこの事件を恐ろしく思うのはもっと別の意味もあるのです。