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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

男はびっくりして尋ねた。

「あたしを、配電室なんかへ、連れ込んだのが、失策だったわね」

「何ぜだ」

「あたし、電信記号を知っているのよ」

「畜生め、すると、今のあれが?」

「そうよS・O・Sよ。何千人という見物の中に、あの簡単な非常信号を読める人が、一人もいないって訳はないと思うのよ」

さっき彼女がスイッチを切ったりつないだりしたのは、無意味ないたずらでなくて、救助を求める信号であったのだ。場内全体の電燈が、パチパチと点滅してS・O・Sをくり返したのだ。

「小女郎の癖に、味をやったな。……だが、そんなことでへこたれる俺だと思うか」

もうぐずぐずしてはいられぬ。男はポケットから麻酔薬の容器を取出した、愈々最後の手段である。

「あたしを、どうしようっていうの」

文代は態と驚いて見せる。

「その可愛い舌の根をとめてやるのさ。貴様を身動きの出来ない人形にしてやるのさ」

男は容器から濡れた白布のかたまりを取出して、いきなり文代の口をふさごうとした。彼はそれが、とっくに贋物に変っているのを、少しも気附かぬのだ。

文代は、じっとしていても、別に危険はなかったのだけれど、この機会に男の顔を見てやろうと、烈しく抵抗を始めた。