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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

その庭先の、雑草生い繁った地面に、桜姫の人形が、物におびえた青ざめた表情で樽り、顔の部分丈けが、薄暗い電燈に照らされている。

士官人形は、その桜姫の前で、立止った。闇の中に彼のおぼろな影が、右手を上げて、何かを指さしているのが、やっと見わけられる。

不気味に明滅する、非常に薄暗い電燈のせいもあった。また、その人形が殊によく出来ていたからでもあろう。清玄の亡霊におびえた桜姫の顔は、まるで生きている様に見えた。

イヤ、もっと正確にいうならば、本当の人間の死に顔にそっくりであった。

ただ驚き恐れているのではない。断末魔の苦悶の形相だ。残酷に殺害された女の、死の刹那の表情だ。

小林少年は、心臓が喉の所へ押し上って来る様な、苦悶を感じた、恐ろしいものを見たのだ。余りの恐ろしさに、その発見を、明智に告げることさえ、憚られる様なものを見たのだ。

膝をついた桜姫の胴体は、すっかり菊の葉で包まれていたが、その感じがどこか、他の人形と違って見えた。表面が滑かでない。引きちぎった菊の枝を、不細工に覆いかぶせた感じで、ある部分はひどく密集しているかと思うと、ある部分は、はげた様に隙間だらけだ。