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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

その隙間から、何か嚥脂色のものが、チラチラ見えている。確かに洋服の布地だ。人形が菊の衣の下に、御叮嚀に洋服を着ているというのは変である。

イヤ、そればかりではない。桜姫のかさばった濡羽色の鬘の下から、覗いているのは、赤茶けた現代娘の髪の毛だ。

「若しや、あれは、賊が文代さんを殺して、巧に人形に見せかけたものではあるまいか」

小林少年は、悪夢にうなされているような気がした。

そうでなくて、菊人形が、菊の下に洋服を着ていたり、鬘の中に、別の色の洋髪が隠れていたりする筈がない。それに、あの洋服は、文代さんの外出着と、全く同じ色合ではないか。

少年は、極度の恐怖に、釘づけになった目で、人形を見つめながら、明智の腕を掴んだ。

明智は、無論その心を察したけれど、彼はその時、小林少年の恐怖にとり合っていられぬ程、もっと重大なものを発見していたのだ。

奇怪な士官人形の指さしている所、庵室の舞台の奥の暗闇に、ボンヤリと白張りの提灯が立っていた。

その提灯が、今徐々に、何かしら別のものに変りつつあるのだ。

化物屋敷の見世物に、よく使われる、鏡仕掛けのトリックであることが容易に想像された。