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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
アア、さっきの士官人形がいるなと、気附いた、そして、今は、あらわになった、その美しい顔を、ハッキリ見て取った。
「ア、文代さん。文代さんだ」
彼は歓喜の為に、顔を真赤にして、いきなり軍服の女に駆けよった。
「オオ、小林さん」
少女は、その声にハッと目を開いて、相手を認めると、両手を拡げて、少年を抱き迎える様にしながら、叫んだ。
「あなた、生きていたんですね」
「エエ、生きていますとも」
「僕もそう思っていたのだ。あなたが、あんな奴にやられる筈はないと思っていたのだ」
二人は、この人工の大峡谷、奇岩の上、老樹の下に、まるで尋ね合っていた姉弟の様に、思わぬ再会を喜んだ。
人々は、この異様なる光景にあっけにとられてしまった。何が何だか、さっぱり分らなかった。
不思議に思った館の係員の一人が、ザブザブと浅い池を渡って、文代と信じていた女の死骸を確めに行った。
「ナーンダ。こいつは人形ですぜ。ほら、六番の舞台に飾ってあった、ダンスの人形ですぜ」
彼は、死骸の首を掴んで、それをグルグルと廻して見せた。
文代さんが、いつの間に人形に代っていたのか。それを、賊を初め一同が、どうして本物と間違える様なことが起ったのか。