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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
国技館の生人形に化けて見たり、風船に乗って空中へ逃げ出すなんて、小説家ででもなければ、ちょっと考えつかないことです。今度の事件はすべて、如何にも、小説家の空想が嵩じたという、突飛千万なものでした」
「賊がつけていたという蝋面の製造者をお検べになりましたか」
明智がたずねる。
「検べました。東京には、蝋細工の専門工場は四五軒しかありませんが、それを残らず調べさせました。しかし、どこにも、あんなものを作った家はないのです」
「蝋細工は、別に大仕掛けな道具がいる訳でもないのでしょう」
「エエ、型さえあれば、あとは、原料と鍋と、それから染料だけで出来るのです。多分あいつは、専門の職人に頼み込んで、自宅で秘密に作らせたものでしょう。僕は蝋細工の工場へ行って見ましたが、少し骨を飲込みさえすれば、素人にだって出来相な、ごく簡単な仕事です。それで、出来上ったものは、まるでセルロイドのように薄くって、いくらか弾力もあって、その上、人間の生顔にソックリなんだから、考えて見れば、恐ろしい変装道具ですよ。それを、額の生え際から耳のうしろまで、スッポリかぶっていたのです。色眼鏡やマスクで隠さずとも、一寸見たのでは、面と気付かぬ程よく出来ていました」