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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
決闘
まで、即ち『吸血鬼』一代記に相違ないのである。
(「報知新聞」昭和五年九月二十六日)
決闘
茶卓子の上にワイングラスが二個、両方とも水の様に透明な液体が八分目程ずつ入っている。
それが、まるで精密な計量器で計った様に、キチンと八分目なのだ。二つのグラスは全く同形だし、それらの位置も、テーブルの中心点からの距離が、物差を当てた様に一分一厘違っていない。
仮りに意地汚い子供があって、どちらのグラスを取った方が利益かと、目を大きくして見比べたとしても、彼はいつまでたっても選択が出来なかったに相違ない。
二つのグラスの内容から、外形、位置に至るまでの、余りに神経質な均等が、何かしら異様な感じである。
さて、このテーブルを中に挟んで、二脚の大型籐椅子が、これもまた整然と、全く対等の位置に向き合い、それに二人の男が、やっぱり人形みたいに行儀よく、キチンと腰をかけている。
紅葉には大分間のある、初秋の鹽原温泉、鹽の湯A旅館三階の廊下である。開放ったガラス戸の外は一望の緑、眼下には湯壺への稲妻型廊下の長い屋根、こんもり茂った樹枝の底に、鹿股川の流れが隠顕する。脳髄がジーンと麻痺して行く様な、絶え間なき早瀬の響。