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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
葬儀車
一時と覚しき頃、その闇の広間へ、影の様に音もなく忍び込んだ人物がある。彼は手さぐりで老人の寝棺に近づくと、ソロソロとそのふたを開き始めた。
葬儀車
闇の広間へ忍び込み、斎藤老人を納めた棺のふたを開いた男は、読者も想像された通り、三谷青年であった。
だが、一体全体彼は何の為に、棺のふたなどを開いたのであろう。開いて、中の死体をどうしようというのか。
闇の中に、鼻をつく屍臭、氷の様に冷え切った死体。目がなれるに随って、ほのかに浮出して見える、恐ろしい死人の顔。
三谷はそれを物ともせず、いきなり、棺の中から老人の死骸を引ずり出すと、軽々と小脇に抱え、音もなく、物の怪の様に部屋を出て、廊下を台所横の物置部屋へとたどりついた。
死骸を物の蔭に隠すと、彼は例の床板をめくり、石のふたをとりのけ、蚊の様な声で、井戸の中へ呼びかけた。
「倭文子さん、僕です。これからまた別の隠れ場所へ変るのです。しっかりして下さい」
倭文子のかすかな返事を聞くと、彼は物置部屋にあった小梯子を持って来て、古井戸の中へおろした。
倭文子と茂少年は、三谷に励まされ、彼の手助けで、やっとその梯子を昇ることが出来た。