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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

しかも、いとしい我子までも、何の罪もない茂までも、同じ憂き目に会わねばならぬのだ。

ほとんど三十分程も、とつおいつ、あわただしい思案を繰返していたが、外からは何の物音も、気配さえも聞こえては来ぬ。

戸外なれば、ひそかに光りのもれて来る、棺のふたの隙間も、今は一様に真暗で、すぐ目の前の茂の顔さえ、少しも見えぬ程だ。

いよいよそれときまった。このままじっとしていれば、親子もろ共、焼殺されてしまうばかりだ。もう便々と三谷の助けを待っている場合でない。彼は何か、よくよくの邪魔がは入って、ここへ来られなくなったのであろう。

「サ、茂ちゃん、構わないから、手足をバタバタやって、ありったけの声で呶鳴るのです。助けて下さいって」

「母さま、いいの?」

少年は継子の様におじけた声で聞き返した。きっと狐みたいな目をしていたことであろう。

「もう、お巡りさん、来ないの?」

アア、何ということだ。倭文子は、焼死の恐れに、現在の我身の境遇を胴忘れしてしまっていた。それを、六歳の幼児に教えられたのだ。

「いけません。いけません。声を出してはいけません」

世の中に、これ程つらい、苦しい立場がまたとあろうか。