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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
ほんの少し苦しいのを我慢すれば、私達は天国へ行かれるのよ。ネ、いい子だから」
火焔の音は、刻一刻強くなるばかりであった。それにつれて、棺内の温度が徐々に昇り始めた。板に燃え移るのも、間もあるまい。
「母さま、熱い」
「エエ、でも、もっともっと熱くならなければ、天国へは行けないのよ」
倭文子は、歯を食いしばって、我子をしっかり抱きしめていた。
たえ難い熱さだ。
もう棺の底に火が移ったのであろう。ピチピチと板のはぜる音と共に、ふたの隙間から、真っ赤な光が、地獄の稲妻の様に、チラ、チラと棺の中を照らし始めた。
「火事! 母さま、火事! 早く、早く」
茂少年は、出来ぬまでも、棺の蓋を突き破って、逃げ出そうと、もがき廻り、はね廻った。
棺内の空気は乾燥し切て、ほとんど呼吸も困難になって来た。それよりも恐ろしいのは、底の板の焼る熱度だ。観念をした倭文子でさえ、もう我慢がし切れなくなった。
「アア、分った。やっぱりそうなのだ」
最後の瞬間、火焔のようにハッキリと、倭文子の頭にひらめいたものがあった。
三谷さんは、私達を棺に入れる時から、それが火葬場の炉の中で焼捨てられることを、チャンと知っていたのではあるまいか。