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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
晩秋の十日間では、まだ形がくずれる程腐爛はしていない。だが、腐爛よりも、うじ虫よりももっと恐ろしい現象が、二つの死体に起っていた。
そこには、二人の巨人が、二人の角力取りが、丸くなって重なっていたのだ。
一人の方の腹部へ、梯子の足が食い入って、その部分が三寸程もくびれて見える。まるで飴細工のタヌキみたいな太鼓腹だ。
死体膨脹の現象である。内臓に発生したガスが、非常な力で、死骸をゴム風船みたいに、ふくらませてしまったのだ。
顔なども、しわがのび、毛穴が開いて、巨人国の赤ん坊の様に、はち切れ相にふくれ上っている。
「これが小川だな」
服装によって、その人と推察出来る。
警部は次に、もう一人の死骸の顔にヒョイと目を移したが、一目見るなり、あまりのことに、さすがの彼も「ギャッ」と叫んで、思わず梯子を駆け上ろうとした。
警部が驚いたのも無理ではない。
そこにふくれ上っていた、もう一つの死骸は、決して未知の男ではなかった。イヤ未知どころか、忘れようにも忘れることの出来ない、今度の事件の大立物が、みじめにも、風船玉のような巨体を、そこに横たえていたのだ。
警部は品川湾で、一度そいつに出会したことがある。