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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

それが、一時間かそこいらの間に全く転倒して、倭文子は無罪と判明した上に、彼女自身が、恐ろしい殺人鬼の餌食とねらわれていたのだとは。アア、何ということだ。

「今度の事件は、最初から、倭文子さんを殺害することが唯一の目的だったのです。外の色々な犯罪は、すべてすべて、その唯一の目的を達する為の手段に過ぎませんでした」

「ちっと待って下さい」恒川氏は仲々承服しない。「それはおかしいですね。か弱い倭文子さんを殺すのに、何の手間暇が要りましょう。一番最初、茂少年をおとりにして、あの人を青山の空家へとじこめた時、何の面倒もなく殺害することが出来た筈です。何も態々、斎藤老人殺しの嫌疑をかけて、罪に落す様な、廻りくどいことをしなくても。……」

「恒川さん。僕がこの事件を重大に考えるのは、その点ですよ」明智は突然厳粛な面持になって、上眼使いに、じっと警部の顔を見つめた。「この事件の真犯人は、人間ではありません。イヤ、人間の皮をかぶった、猛獣です。毒蛇です。アア、何という執念でしょう。我々常人の想像力では判断も出来ない様な、けだものの世界の執念です。……

犯人は、猫が鼠をもて遊ぶ様に、倭文子さんをもてあそんでいたのですよ。