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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

恒川氏は、不意を打たれて、驚きの表情を隠す暇がなかった。

「その外に考え様がないではありませんか。邸は隙間もなく警官や家人によって見張られていたのです。あの日邸を出入りした人物はハッキリ分っています。その外邸を出たものといっては、棺桶があったばかりです。とすれば、倭文子さんと茂少年は、あの棺に隠れて、ここを抜け出したと考える外ないではありませんか。簡単な算術の問題ですよ」

「しかし、あの棺桶に、三人も人が入れますか」

警部の矢つぎ早の反問だ。

「三人は入れなくても、女と子供が入る程の広さはあります」

「すると、斎藤老人の死体は?」

「お目にかけましょう」

明智はテキパキ答えておいて、乳母のお波を振返った。

「ばあやさん。斎藤老人のいる所は、君が知っている筈だね」

お波は、面食って、目をパチパチやった。

「あたしが? イイエ、そんなもの存じますものですか」

「知らないって? そんな筈はないよ。ホラ、奥座敷に並んでいる棺桶さ」

「アア、あれでございますか。あれなら三つとも、からっぽですよ。さっき葬儀社から届けて来たばかりですもの。明智さんのお指図だっていってましたが、みんなで、一体何になさるのだろう。