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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
「証拠がほしいのかね」
「エエ、あれば見せてほしいものですね」
「よし今それを見せてあげる。ちょっとの辛抱だ。おとなしくしているのだよ」
明智はいいながら、恒川警部に目くばせした。
「この男が、動かぬように、うしろから押さえていて下さい。歯型をとるのです」
それを聞くと、三谷は青くなって、椅子から立上った。彼は歯型の意味を知っていたからだ。だが、逃げ出すひまはなかった。立上ると同時に、両方のわきの下から、警部の二本の腕がニュッと出て、いきなり彼をはがいじめにしてしまった。
明智は動けなくなった三谷の顔を、グッとうしろへねじ曲げて、唇を押し開き、用意していた赤いゴム様の柔かい塊りを、食いしばった上下の歯並に、ピッタリと圧しつけ、手早く歯型をとってしまった。
「サア、三谷君、よくごらん。この赤の方が、今取った君の歯型だ。それからこの白いのが」と明智はポケットから布にくるんだ石膏の歯型をとり出して「青山の空家に残っていた真犯人の歯型だ。この二つが完全に一致したら、君が即ち真犯人だという、物的証拠が出来上る訳だ。今合せて見るから、よくごらん。ホラね、一分一厘の違いもなく、全く同じだ。