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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
しかし、一緒に連れて帰るには、少し重過ぎるかも知れませんぜ」
谷山はあざけるようにいいながら、ドアを押し開いた。と同時に、サッと吹き出す異様な冷気。
「ア、真暗じゃないか、スイッチは、スイッチは?」
警部にせき立てられて、谷山は一歩隣室へ踏み入り、壁のスイッチを押した。
パッと明るくなった電燈の光りで見ると、その部屋はやっぱり機械室の続きで、コンクリートの池の様な巨大な製氷タンクが、室の半をふさいでいた。
「オヤ、誰も居ないじゃないか」
警部は、あたりを見廻しながら、けげんらしくいった。だが、その実、彼の心の隅には、既に、ある戦慄すべき予感が、雨雲のようにひろがり始めていたのだ。
「ここにいるのですよ」
谷山は身軽に、池の縁を伝わって、向うの隅にある小配電盤の所へ行き、スイッチの一つを、カチンと入れた。
と、同時に、ギリギリと歯車のきしむ音がして、タンクの中央から、亜鉛の巨大な角柱が、ニューッと首を出して、徐々に天井へまき上げられ、それがタンクから出切てしまうと、今度は横に宙づりをして、タンクの外側へ、ズルズルと降りて来た。
丁度その下に、多少熱湯をたたえたものであろう、モヤモヤと湯気の立昇る別の小さなコンクリートの池がある。