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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
逃亡
入って来たのは、明智の助手の文代さんを先頭に、殺されてしまったとばかり思っていた、畑柳倭文子と、茂少年であった。
逃亡
その時の谷山三郎の驚愕と憤怒の形相は、見るも無慙であった。
無理もない、たとえ吸血鬼のような悪魔にもせよ、兎も角も兄の敵を討つ為めに、苦労に苦労を重ねた上、ついに最後の目的を達したと信じ切って、得々としてその巧妙な殺人手段を見せびらかしていた時、殺してしまった筈の、当の敵の倭文子が、生きて彼の目の前に現れたのだ。
冷蔵庫の中のように冷々とした製氷室であったにも拘わらず、玉の汗が、彼の青ざめたこめかみをツルツルと流れ落ちた。血走った目は、倭文子の顔を凝視したまま、ガラス玉のように動かなくなってしまった。かわいた唇をブルブルとふるわせて、何事かいおうとするけれど、声さえも出なかった。
今這入って来た倭文子はと見ると、なき谷山二郎に対する、罪深い仕うちを恥てか、しょんぼりとうなだれて、消えも入りたい風情に見えた。
「明智さん、君はいつの間に、この魔術を行ったのです。君は実に恐ろしい人だ」
恒川氏は、驚嘆の声を発しないではいられなかった。