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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
「明智さん、君の予言は的中しました」
「エ、何ですって?」
「倭文子さんが、殺されたのです」
一刹那、異様な沈黙があった。三人はだまって、お互の目を見合った。
「くわしいことは分りませんが、犯人の手懸りは全くない。非常に不思議な殺人事件だという知らせでした」
警部は帰り支度をしながらいった。
「僕は兎も角畑柳家へ行って見ます。その上でくわしい事情をお知らせしましょう」
「電話を下さい。僕も現場へ行けないのが残念です。しかしここの電話室位なら歩けますから是非模様を知らせて下さい」
明智は病床から起き上る様にして、熱心に頼んだ。
恒川氏がタクシーを飛ばして、畑柳家へ行って見ると、書生に変装した二人の刑事が、顔色をかえて玄関に出迎えた。検事局の人々も既に来着していた。
殺人現場は、読者にも馴染の深い例の洋風客間であった。倭文子はそこの長椅子の前に、あけにそまって絶命していた。致命傷は背後から左肺の深部に達する突き傷で、兇器は別段特徴もない短刀であった。
「全く分りません。どうしてこんなことが起ったのか、まるで夢の様でございます」
その客間には、ベソをかいた茂少年をだきしめるようにして、乳母のお波がたたずんでいた。