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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

老人が客間に引返して見ると、小川と名乗った客は、影も形もないのだ。

帰ってしまったのかと、玄関番の書生に尋ねると、帰った様子がないとの答えだ。何よりの証拠は、靴を脱いだままになっている。まさかはだしで帰る訳もあるまい。

事件の際ではあり、何となく気になる節があったので、老人は召使一同にも命じて、部屋部屋を隈なく探し廻って見た。

すると、なくなった主人の、畑柳氏の書斎であった二階の洋室のドアが内側から鍵でもかけた様に、開かなくなっていることが分った。

そんな筈はない。変だというので、鍵を探して見たが、そのドアは別段締りをする必要もないので、鍵は室内の机の抽斗に入れてあったことを思い出した。

按うに、何者かが書斎に入って、抽斗の鍵で、内側から締をしてしまったものであろう。

鍵穴に目を当てて見ると、案の定、向側から鍵をさしたままと見え、穴がつまっていて、何も見えぬ。

「仕方がない。庭から梯子をかけて、窓を覗いて見よう」

ということになり、一同庭に廻り、一人の書生が命を受けて、梯子をかけ、二階の窓へと昇って行った。

もうたそがれ時であったから、ガラス越しに覗いた室内は、深い霧がたちこめた様で、ハッキリ見分けるのは、仲々困難であった。