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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

三谷がふと気づいて囁いた。

「茂? 畑柳夫人の子供ですね。そうだ。ここが果して犯人の住家だとすれば、その子供も、畑柳夫人も、この家のどこかにとじこめられている筈だ。……踏ん込んで見ましょう」

恒川警部は臨機の所置をとる決心をした。

「君は門の外へ出て、逃げ出す奴があったら、引捕えてくれ給え」

彼は傍らの巡査に命じて置いて、三谷と共に、玄関の式台を上った。

真暗な部屋部屋を、手探りで探し廻ったが、人の気配もせぬ。

二人は思い切って、手分けをして、一部屋一部屋、電燈をつけて廻ることにした。

恒川警部は、最後に、最も奥まった座敷へ踏み込んだが、どの部屋も、どの部屋も、空っぽなので、ここもどうせ空部屋であろうと、高を括って、何気なくスイッチをひねると!

アッと思う間に、黒い風の様なものが、部屋を横切って、一方の廊下へ飛び出した。

「ヤ、曲者!」

警部の声に、怪しい男は、敷居をまたぎながら、ひょいと振返った。その顔! 畑柳家の塀の上で笑っていた、あの骸骨みたいな奴だ。唇のない男だ。

「三谷君、あいつだ。あいつがそちらへ逃げた。ひっとらえてくれ」

警部はわめきながら、廊下へ飛出して怪物を追駈けた。