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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
三谷はいいながら、その方へ歩いて行く。
だが、台所はさっき調べた時、何の異常もなかった。電燈もその時つけたままだ。
「そんな筈はないのだが」
と恒川警部が躊躇している間に、三谷はもう台所の敷居をまたいでいた。と同時に「アッ」というただならぬ叫び声。
恒川氏は驚いて駈けつけて見ると、三谷は、真青になって、台所の片隅を見つめたまま、立ちすくんでいた。
「どうしたんです」
と尋ねる警部の声を制して、三谷は、聞えるか聞えないかの囁き声で答える。
「あいつです。あいつがこの上げ板を取って、縁の下へ這入って行ったのです」
台所の板の間が、炭などを入れる為の上げ蓋になっている、よくある奴だ。
警部は、勇敢に飛んで行って、その上げ板をめくって見た。
「ヤ、地下室だ」
板の下は、意外にも、コンクリートの階段になっていた。その部分丈け箱の様に、床下とは遮断されているので、怪物は外へ逃げることは出来ぬ。地下室へ降りたに極っている。もう袋の鼠だ。
二人は、用心しながら、真暗な階段を下って行った。先に立つ恒川氏は、帯剣の柄を握りしめている。
階段を降り切った所に扉があって、その隙間から幽かな光りが漏れて来る。