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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
泣き声が俄に大きくなったのを見ると、子供はたしかにこの扉の向うにいるのだ。
どうしたことか、鍵穴には鍵をさしたままになっている。恒川氏は手早くそれを廻して、扉を開いた。
二人は扉を小楯に、部屋の中を覗き込んだ。と同時に、外からも、中からも、驚きと喜びの叫び声。
部屋の中には、淡いカンテラの光に照らされて、倭文子と茂が抱き合っていたのだ。
飛込んで行く三谷青年、すがりつく倭文子。
だが、恒川警部は、この感激の場面をよそに、不満らしい顔をして、キョロキョロと部屋を見廻していた。肝腎の賊の姿が見えぬのだ。
今来た階段の外に、どこにも出入口はない。確にここへ逃げ込んだ怪物が、またしても消え失せてしまったのだ。
倭文子に尋ねると、賊は昨夜茂をこの部屋へ連れて来て、立去ったまま、一度も顔を見せぬということであった。茂は、終日食事を与えられぬ空腹と、恐怖の為に泣いていたのだ。
恒川警部は、壁のカンテラをはずして、階段を上から下まで検べて見たが、どこにも隠戸や抜道はなかった。
結局、誘拐された畑柳母子を取戻すことは成功したけれど、その犯人の逮捕は全く失敗に終った。