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よるのこうず
夜の構図
織田 作之助
「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页
第一章
第一章
ホテルを出ると雨が降っていた事。
三五二号室の女の代りに四二一号室の女に外科手術をする事。
並んで第一ホテルを出ると雨であった。鋪道の濡れ方で、もう一時間も前から降っていたと判った。少しの雨なら直ぐ乾き切ってしまう真夏の午後なのだ。
一時間も前から降っていたということがいきなり信吉を憂愁の感覚で捉えてしまった。しかし、この寂しさは一体何であろう……。
雨が降るということには、何の意味もない。チエホフの芝居の主人公なら、
「雨が降っている、これは何の意味です。何の意味もありやしませんよ」
と言うところであろう。
雨が降っている……。極めてありふれた自然現象に過ぎない。
しかし、このありふれた現象が自分の知らぬ間に起っていたということが信吉には新鮮な驚きであった。
何故か。
雨が鋪道を濡らしていた一時間、信吉はホテルの第四五三号室のベッドの上で、見も知らぬ行きずりの女の体を濡らしていたのである。
娘は中筋伊都子という。十九歳だが、雀斑が多いので二十二歳に見える。少し斜視がかって、腋臭がある。
一時間前までは、信吉と伊都子は赤の他人であった。伊都子は信吉にとって、まるで急行通過駅の如き存在に過ぎなかった。