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よるのこうず
夜の構図
織田 作之助
「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页
第十章
「あんまり何々すぎる」例えば、異色があるにしても、あんまり異色がありすぎる。
「予備知識はもう充分でしょう。さア、どうぞ女房がお待ちしておりますよ」
「じゃ……」
と、信吉は新内語りと別れて歩きだしたが、すぐその足で第一ホテルへ行こうとはしなかった。
江口冴子の楽屋へ行かねばならない。
第十章
信吉が内気であるということ。
冴子の鏡台の横に聖書があったこと。
冴子が不幸の小石を蹴ること。
楽屋口のエレヴェーターで三階まで上ると、信吉は一部屋、一部屋、俳優の名札を見上げて行った。
江口冴子の部屋は右の奥にあった。
江口冴子の部屋――といったが、しかし彼女ひとりで占領しているわけでなく、ほかに四五人の女優の名札が掛っていた。
しかし、その女優たちは舞台へ出ているのか、暖簾をあげて覗くと、鏡台――といっても、棚の上にのせられるような小型の鏡だが――の前に、冴子ひとり田舎娘の扮装のまましょぼんと坐ってるだけだった。
「あら」
と、振り向いた。
「はいってもいいですか」
冴子ひとりだと思うと、信吉の声はいそいそと弾んだ。
「どうぞ」
信吉は立ったまま、手を使わずに靴をぬいだ。