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よるのこうず
夜の構図
織田 作之助
「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页
第九章
「まさか、あんたの奥さんじゃないでしょうね」
「ところが、残念ながら、あたしの女房なんです」
次の幕があくのか、拍子木の音が二人のいる奈落の通路へ聴えて来た。
第九章
舞台の科白よりも地下室の無礼な話の方が異色あること。
堂々たるコキユについて。
蛇が長すぎるということ。
舞台では次の幕がはじまったらしい。
その幕は、異色があるという点で、信吉にはいくらか自信があった。
しかし、その異色ある舞台も、丁度その下の地下室の通路で、奇妙な新内語りが信吉を相手に喋っている言葉の異色ぶりにくらべると、にわかに、月並みな、もっともらしい紋切型だと思われて、信吉は情けなかった。
「おれの書いたもっともらしい科白よりもこの男のもっともらしくない言葉の方が、はるかに芝居だ」
信吉はそう思った。
しかし、この国の人々はもっともらしい言葉や議論というものを好む傾向がある。当り前のことが好きなのだ。最大公約数的なものが好きなのだ。誰が考えても、誰が言っても、そうなるという標語的な結論に安心するという癖がある。ことに、狭義の道徳――例えば修身の教科書の精神に裏づけられた言葉を、自己保存の本能から、ある安心感をもって聴くことを好み、それ以外の奇矯に走った異色ある言葉には、一応眉をひそめるのである。