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よるのこうず

夜の構図

織田 作之助

「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页

青空文庫

何といっても、冴子はついて行くといってきかなかった。

「じゃ、ついて来い。その代り、どうなっても知らんぞ!」

信吉はついにたまりかねてそう言った。冴子は、誰が何といっても耳にはいらない状態だった。だから、気の弱い信吉は、もうそれ以上いやとは言えなかった。

冴子はその夜遅く家に帰った。そして、その夜のうちに、どう口説いたか母親を説き伏せ、一晩中掛って荷物をまとめた。身の廻りのもの一切、冬の着物、夜具、買い溜めていた靴、帽子のたぐいまで、持って行くことにしてチッキにして、劇団への挨拶、友人との別れ、町会への異動申告、みんな一人で半日かけずり廻って済ませ、信吉と汽車の中で食べる弁当まで自分の手で作って、駅へかけつけた。

そして、信吉と二人で大阪行の夜汽車に乗った。何もかも半日でやってのけた冴子の真剣さに、信吉は打たれたが、しかし、それよりも、冴子がさげている鞄の安っぽさに、信吉ははっとした。貧しい家の娘ともいえなかったが、けっして裕福な家の娘ではない。作ってくれた弁当も、冴子が謝ったくらい、みすぼらしいものだった。しかし、信吉は、なかなかご馳走だとほめるのだった。