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よるのこうず

夜の構図

織田 作之助

「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页

青空文庫

いい子になろう」

と、肩にのせていた手をはなした。

「ベーゼしないことがいい子なの……」

「そうだ。つまり僕は女たらしだからね。やはり、しちゃ悪いよ」

「女たらしに見えないわ」

「じゃ、僕がベーゼしたらどうする……? 撲るかね」

「こんな話よしましょう」

「よそう」

と、信吉はわざと大きな声で言って、ドアをあけた。

玄関まで送って行って、冴子と別れると信吉は喫茶室へはいった。

珈琲を飲みながら、

「ドアのところで、接吻してしまえばよかったんだ。つまり、いい子になろうとしていたんだな」

と、信吉は呟いた。

「――ベーゼしたら撲るかね――なんて科白はまずい科白だった。あれで台なしになってしまった。あの科白さえなければ、接吻出来たんだ。しかし、あの場合、あの科白ぬきで接吻するのは、演出のキメが荒すぎる。唐突すぎるからね。しかし、唐突すぎるのがなぜいけないんだろう……? つまり、情熱のない行為は唐突であってはいけないわけだろう」

情熱のない行為といえば、今夜八時、三三三号室をいきなり訪問することも情熱をもってする行為ではない。

だから、唐突であっては、醜いだろう。では、唐突でなくするにはどうすればいいだろうか。