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よるのこうず
夜の構図
織田 作之助
「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页
監事部屋には、演出家の田村礼介がいた。その顔色を見るなり、信吉は「公判の結果はよかったんだな」と思った。
昨日の総稽古で、田村の演出のキメが荒かったのは、今日の判決の宣告をひかえていらいらしていたためだったのだ。田村は左翼運動の嫌疑で、戦争勃発と同時に検挙されたが、保釈で出獄していたのである。
「どうでした……?」
信吉は挨拶の代りにきいた。
「えっ……?」
軽く問いかえしたが、
「――あ、裁判ですか」
と、すぐ判ったらしく、信吉の煙草を借りながら、
「――執行猶予でした。山上さん(演劇集団の座長)が証人になってくれてね、例の朴訥な調子で、私は思想のことは何にも判らないが、田村君は日本の演劇のために貴重なんです――と言ってくれたのが、大変よかったんだ。下手すると戦争中ほうり込まれたかも知れなかったですよ」
「そりゃよかったですね」
と、一応儀礼的に言ってから、信吉は、
「――勿論、転向を誓われたんでしょうね」
と、きいてみた。
「そりゃね、君……」
と、田村は苦笑して、
「――転向しなければ、一生出られないじゃないか。出ている連中はみんな転向しているよ」
「なるほど、しかし、本当に転向しているんですか」