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よるのこうず
夜の構図
織田 作之助
「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页
何かソワソワと慌てている恰好だったが、しかし、靴をぬぐと、すぐには冴子の傍へ行きかねた。
それほど内気なところがあった。
「どうぞ。お敷きになって――」
冴子は自分が敷いていた赤い座蒲団を裏返して、信吉の前に出したが、しかし、その上にどっかりと坐るほど、信吉はまだ楽屋馴れしていなかった。
「はア、ありがとう」
おかしいほど丁寧に頭を下げて、モジモジした。
大部屋の女優に対する劇作家の態度にしては、一寸軽軽しすぎるくらい、丁寧だった。
この丁寧さは、インテリ階級のキメの細かさかも知れない。もっとも、インテリというやつは、へんに行儀がよいと思っていると、突如として不作法になる。いわば、学生の行儀のよさと同じように、しっくりと身についた行儀のよさではなかった。一つには、女優の楽屋訪問といううれしがりのすることを、今おれもしているのだという意識が、信吉に負目を感じさせているのかも知れなかった。
だから、冴子と視線を合わせることすら出来ず、何となく部屋の中を見廻していた物珍らしそうな眼付きだと思われるのは心外だったが、しかし、そうでもしなければ間がもてなかった。