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よるのこうず

夜の構図

織田 作之助

「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页

青空文庫

しかも、信吉にとって、女の前で赧くなることほど辛いものはない。屈辱すら感じている。

その信吉が、冴子の前で今ぽうっと赧くなっているとは、何としたことであろう。

問題は、伊都子と冴子と、どちらがすぐれているかという点にはない。

どちらに惚れているかという点だ。

はっきり言えば、どちらにも惚れていない。が、しかし、冴子に「惚れているような気がしている」ことだけは、たしかだった。

だから、たとえば、冴子の鏡台の横にある聖書を見ると、信吉はうろたえたのである。

信吉の缺点は、時に物事を誇張して考えるということだ。

聖書を置いているところを見ると、ピューリタンかも知れないと思うのだ。ピューリタンの血を、デカダンスの血で汚してはならないという自責と、ピューリタンだとすれば、案外固くて、うかつに口説けないという打算だった。

「あなたはクリスチャン……?」

と、信吉はきいた。

「いいえ。これ」

冴子は聖書を指して、

「――お友達に借りましたの。面白いから読んでごらんと言って、貸してくれたの。ほかに読むものがないから、読んでますの」

信吉の眼は輝いた。冴子がクリスチャンでなかったことを知ったからではない。