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よるのこうず
夜の構図
織田 作之助
「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页
みごとな登場人物!
「やられた!」
と、呟きながら、しかし、信吉は、伊都子が寝不足の眼で、九州までの長距離を汽車に揺られている姿を、想った。伊都子は昨夜信吉のところへ来る前に、既に東京駅で今朝の切符を買って置いたのだ。
伊都子は新しい女だ。普通の女よりはあわれさはすくない。しかし、新しければ新しいなりに、汽車の旅の長さの底をよぎるわびしさはあろう。
その表情を、信吉は想いやった。どんな人の顔にもふと泛ぶ、生きて行くわびしさの表情かも知れない。
やがて、信吉はぐっすり眠りに落ちてしまった。阿呆のように眠ってしまった。
どれだけ眠った頃だろうか、電話のベルの音で眼をさました。
ベッドから受話機までは、手が届かなかった。信吉はうるさそうに、ベッドから這い出すと、
「もし、もし……」
「須賀さんでいらっしゃいますか」
電話の声は美しかった。受付の女だろうか。
「はあ」
「只今、江口さんが御面会に来られましたが――」
「江口……?」
と考えたが、ああ、冴子かとすぐ判った。
「今、何時ですか」
「只今、零時三十分でございます」
「ありがとう。すぐロビイへ行きますから」
信吉は赧くなって、電話を切った。