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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

のみじめな景観をきわだたせているように思えた。

六ちゃんはとらを肩にのせて、そちらへ近よってゆく。荒地には子供たちが遊んでいるが、決して六ちゃんを見ることはない。

荒地には子供だけでなく、内職のためになにかを割ったり、乾したり、束ねたりする老人や、いくらかの手間賃になる雑多の仕事にはげむ老婆やかみさんたちもいるのであるが、これらもまた子供たちと同様に六ちゃんを見ようとはしない。

かれらには六ちゃんが見えないのだ。ちょうどどぶ川の東側の人たちにとって、ここの住人たちが別世界のもの、現実には存在しないもの、という考えかたと同じ意味が、ここの人たちの場合にもあてはまるのだろう。――これはしいてなにかを暗示しようとするのではなく、われわれが日常つねに経験していることである。雑踏する街上において、劇場、映画館、諸会社の事務室において、人は自分と具体的なかかわりをもったとき初めて、その相手の存在を認めるのであって、それ以外のときはそこにどれほど多数の人間がいようとも、お互いが別世界のものであり、現実には存在しないのと同然なのである。

「もうすぐだぞ」六ちゃんはとらに云う、「そら、もうそこがおめえのうちだ」