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がくもんのすすめ
学問のすすめ
福沢 諭吉
「学問のすすめ」1872(明治5)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 87,080 字 · 170 页
この一段に至りては文明諸国の法律はなはだ厳重なり。いわゆる威ありて猛からざるものか。わが日本にては政府の威権盛んなるに似たれども、人民ただ政府の貴きを恐れてその法の貴きを知らざる者あり。今ここに私裁のよろしからざる所以と国法の貴き所以とを記すこと左のごとし。
譬えばわが家に強盗の入り来たりて、家内の者を威し金を奪わんとすることあらん。この時に当たり、家の主人たる者の職分は、この事の次第を政府に訴え、政府の処置を待つべきはずなれども、事火急にして出訴の間合いもなく、かれこれするうちにかの強盗はすでに土蔵へ這入りて金を持ち出さんとするの勢いあり。これを止めんとすれば主人の命も危き場合なるゆえ、やむを得ず家内申し合わせて私にこれを防ぎ、当座の取り計らいにてこの強盗を捕え置き、しかる後に政府へ訴え出ずるなり。これを捕うるにつきては、あるいは棒を用い、あるいは刃物を用い、あるいは賊の身に疵つくることもあるべし、あるいはその足を打ち折ることもあるべし、事急なるときは鉄砲をもって打ち殺すこともあるべしといえども、結局主人たる者は、わが生命を護り、わが家財を守るために一時の取り計らいをなしたるのみにて、けっして賊の無礼を咎め、その罪を罰するの趣意にあらず。