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おもいだすことなど

思い出す事など

夏目 漱石

经历生死关头后,作者用细腻笔触回忆那段病中时光,那些细微的光影与人事,读来既心酸又温暖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 57,003 字 · 113 页

青空文庫

二十九

その時地面と居宅の持主たるべき資格をまた奇麗に失ってしまった。傍のものは若くなった若くなったと云ってしきりに囃し立てた。独り妻だけはおやすっかり剃っておしまいになったんですかと云って、少し残り惜しそうな顔をした。妻は夫の病気が本復した上にも、なお地面と居宅が欲しかったのである。余といえども、髯を落さなければ地面と居宅がきっと手に入ると保証されるならば、あの顋はそのままに保存しておいたはずである。

その後髯は始終剃った。朝早く床の上に起き直って、向うの三階の屋根と吾室の障子の間にわずかばかり見える山の頂を眺めるたびに、わが頬の潔よく剃り落してある滑らかさを撫で廻しては嬉しがった。地面と居宅は当分断念したか、または老後の楽しみにあとあとまで取っておくつもりだったと見える。

客夢回時一鳥鳴。 夜来山雨暁来晴。

孤峯頂上孤松色。 早映紅暾欝々明。

二十九

修善寺が村の名で兼て寺の名であると云う事は、行かぬ前から疾に承知していた。しかしその寺で鐘の代りに太鼓を叩こうとはかつて想い至らなかった。それを始めて聞いたのはいつの頃であったか全く忘れてしまった。ただ今でも余が鼓膜の上に、想像の太鼓がどん――どんと時々響く事がある。