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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

川手氏をこの地下室へ導いた、あの不思議な幼児であった。

乳母らしい女は、一目、座敷の様子を見ると、あまりの恐ろしさに、サッと顔色を変えて立ちすくんだが、やがて気を取り直すと、倒れている二人の側に駈け寄って、涙声を振りしぼった。

「旦那様、奥様、しっかりなすって下さいまし。旦那様、旦那様」

こわごわ肩に手をかけて、揺り動かすと、主人の山本は、まだことぎれていなかったと見えて、機械仕掛の人形のような、異様な動き方で、ゆっくりと顔を上げた。オオ、その顔! 目は血走り、頬はこけ、紙のような不気味な白さの中に、半ば開いた唇と舌とが、紫色に変っている。しかも、その額から頬にかけてベットリと赤いものが。

「オオ、ば、ばあやか……」

死人のような唇から、やっとかすれた声が漏れた。

「エエ、わたくしでございます。旦那様、しっかりなすって下さいまし。お水を持って参りましょうか。お水を……」

乳母は狂気のように、瀕死者の耳もとに口をあてて叫けぶのだ。

「ぼ、ぼうや、ぼうやを、ここへ……」

血走った目が、座敷の隅におびえている男の子に注がれる。

「坊ちゃまでございますか、サ、坊ちゃま、お父さまがお呼びでございますよ。