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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

黒い影

光と云っては、その蚊帳の上に下っている青いカヴァーをかけた五燭の電燈ばかり。蚊帳の中は殆んど見すかせぬ程の暗さである。

「なんだろう。蚊帳の中に何かいるようじゃないか」

「いますよ。よく見えないけれど、何だか裸体の女のようですぜ。アア、真裸体です。それでこんなに暗くしてあるんですよ」

「なにをしているんだろう」

「殺されているんですよ。顎から胸にかけて、黒いものが一杯流れています。血です。裸体に剥がれて、惨殺された女ですよ」

「五体は揃っているようだね」

「エエ、そうのようです」

「髪は断髪じゃないかい」

「断髪ですよ」

「肉づきのいい、若い女だね」

話している内に、少しずつ目が慣れて、蚊帳の中の女の姿が浮上って来た。

「調べて見ましょうか」

「ウン、調べて見よう」

二人は意味ありげな目を見交した。何かツーンと痺れるような感じが、小池助手の背筋を這い上った。

二人は柵を越えて、無言のまま中に入り、膝を没する雑草を踏み分けて、荒屋の上に上って行った。そして、先ず博士が古蚊帳の裾に手をかけると、それをソッとまくり上げた。

黒い影

荒屋の縁側に上って、古蚊帳をまくると、天井に仕掛けた青い豆電燈の幽かな光を受けて、全裸の美女が、まるで水の底の人魚のように横わっていた。