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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

暗闇に蠢くもの

僕は今こんなことを考えているのですよ。あの少年のように小柄で、素敏こい黒眼鏡の男こそ、外ならぬ北園竜子その人ではなかったかとね」

中村警部はそれを聞くと、ハッとしたように顔を上げて博士を見た。そして、そのまま二人は、お互の目の中を覗き合うようにして、いつまでも黙り込んでいた。

暗闇に蠢くもの

翌日の各新聞には、この意外な犯人発覚の径路が、夜更けの隅田川、ボート遊びの男から説き起して、事細かに報道され、全読者に思いもかけぬ激情を味わせた。血染めのハンカチ、切断された生指、美貌の生華師匠、その不思議な失踪、分けても十箇の罐詰と十斤の食パンの謎は、二人以上の人の集るところ、必ず好奇の話題となって、さも気味悪げに囁き交されるのであった。

北園竜子の写真を手に入れる事、彼女の戸籍簿を調べる事、三島駅前の運送店に張り込みをする事という、中村捜査係長の三つの捜査方針は、戸籍簿を除いては全く失敗に終った。

刑事を八方に走らせ、竜子の知人という知人を訪ねて、写真を探し求めたけれど、流石に殺人鬼は用心深く、どの知人の手元にも一葉の古写真さえ保存されていなかった。

また三島駅前の張り込みは、少しの抜かりもなく行われたが、運賃前払いの十数箇の荷物は、運送店の倉庫に積み上げられたまま、受取人の姿はいつまでたっても現われず、三島駅