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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

黒眼鏡の男

「君、この蓋を開けて下さい」

博士が呶鳴るまでもなく、主任もそれに気づいて、もう真青になりながら、ポケットの鍵で、ガラス箱の蓋を開いた。

「人形の肌に触ってごらんなさい」

主任はオズオズと、人差指を人形に近づけ、その腹部に触って見た。触ったかと思うと、悲鳴のような叫び声を立てて、飛びのいた。

人形の肌は、まるで腐った果物のようにブヨブヨと柔かかったからである。そして氷のように冷たかったからである。

黒眼鏡の男

三人は暫くの間言葉もなく茫然と顔見合せていた。死体をガラス箱に入れて、衆人の目に曝すという、余りにも奇怪な着想に、流石の犯罪専門家達もあっけにとられてしまったのだ。

「ごらんなさい。この死体には全身に化粧が施してある。唇なんかも念入りにルージュが塗ってある。蝋人形らしくするのに、こんな手数をかけたのですね」

中村係長が感に堪えたように口を切った。

如何にもそれは死体とは考えられぬ程艶めかしい色艶であった。犯人は死体化粧によって、そこに一つの芸術品を創造したのだ。彼が人なき部屋、ほの暗き燈火の下で、死体とたった二人のさし向い、ギラギラと目を光らせ、唇をなめずりながら、絵筆を執って、悪魔の美術品製作に余念のない有様が、まざまざと瞼の裏に浮かんで来るように感じられた。